「キッチンから洗面室に行こうとするとこういう動線になるんだ」
ゆかりはハウスメーカーからもらった図面に鉛筆で動線を書き込んで、そう言った。
洗濯や掃除のときの動き、買い物から帰った後の動きも書き込んでみる。
「仕事から帰ってきてスーツの上着をかけられる場所が1階にあるといいな。
2階にわざわざ上がってかけてまた降りてきてそれから食事ってちょっとめんどうだし」
康介が言う。そういう間取りにしたらソファに置きっぱなし、なんてこともなくなるだろうか、とゆかりは考えながらくすりと笑う。
手紙をもらうまでは“大容量の収納”ばかり考えていた。
収納スペースがたくさんあれば、部屋の中が片付くし、掃除もしやすくなると思い込んでいた。
でも、そうではない。肝心なのは“動きと動きの間の収納”なのだ。
「朱音は宿題をキッチンのテーブルでやる習慣があるから、リビングに“ランドセルの置き場”みたいなものがあるといいかもしれないね。きっと千尋も真似するだろうから」
「シューズクロークの隣に、コートやジャケットをかけられる場所を作るのもいいんじゃない?」
日々の暮らしで感じる“つまずき”は人それぞれで、似通っていたとしても家族によって違うはず。
快適な間取りは、こうして家族で話し合いながら日々の暮らしを見つめなおすことでできあがるものなのだろう。
次の打合せまでにたくさんの“つまずき”を見つけておこう。そう思いながらゆかりは手にしていた鉛筆をテーブルの上に置いた。
※このお話は一般的に寄せられる家づくりへの想いや悩みを物語風にアレンジしたものです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。