トースターに食パンを3枚並べ、コーヒー粉を入れたフィルターをコーヒーメーカーにセットする。
藤原家のキッチンにトーストとコーヒーの香ばしい香りがゆっくりと漂い始める。寝ぼけ眼に目覚めの香りだ。
正月休み気分も抜け、ようやく平常運転といったところだろうか。長女、咲香(えみか)の小学校も昨日が始業式で、今日から授業だという。
「久しぶりに朝トーストを食べる気がするわ」
妻の由紀子にそう言うと、彼女は笑って言った。
「そうやねぇ。お正月の三が日はお雑煮やったし、昨日の朝ごはんは七草粥やったもんね。それに、亮くん、実家でお餅ばっかり食べてたんやもん」
我が家は毎年僕の実家で年越しをする。三が日の朝食は雑煮で、その後はリクエスト制だ。
これは僕が小学生の頃から変わらない習わしで、特別な理由でもない限り雑煮だったり焼餅だったり、とにかく餅を食べることにしている。
僕の実家は築32年の一軒家だ。僕たちが帰省する際、母はいつも客間である和室を僕たちの寝室に整えてくれている。
由紀子には気を遣わせているかもしれないが、慣れ親しんだ家はやはり落ち着く。
僕たちが住む賃貸マンションも居心地は悪くはないが、少々手狭だ。
咲香ももう少し大きくなったら自分の部屋を欲しがるかもしれないし、僕も今はない書斎にエスプレッソマシーンを置けるとうれしい。
「僕たちもそろそろ家を建てることを考えてみようか」
支度を終えた僕と咲香を玄関口で見送ろうとしていた由紀子は、不意に投げかけられた言葉に驚いた様子だったが、すぐに「そうやね、ちょっと調べてみるね」と笑って答えてくれた。
※このお話は一般的に寄せられる家づくりへの想いや悩みを物語風にアレンジしたものです。実在の人物や団体などとは関係ありません。